塾全協通信2024年4月号
塾全協通信4月号を掲載いたします。ご覧くださいませ。
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下記、一部抜粋
テーマ:新年度の英語、どうします?~英語お悩み相談会~
日時:2024年2月25日(日) 15:00〜17:00
場所:サムティフェイム新大阪
講師:有働尚紀先生(兵庫 ジェイ教育システムズ)
レポーター:平野芳英(I 塾)
兵庫県は北は日本海、南は瀬戸内海に面していて近畿地方で最も面積が大きな県である。学区は5つに分かれていて第4学区の中心である姫路市は人口53万人、その地域一の難関校である姫路西高校に25年連続で最多数の合格者を輩出するj教育セミナー(14校舎、生徒数2600名)の有働尚紀 塾長にお話をお伺いした。
塾全協セミナー 「中学生の英語を取り巻く状況」
j教育セミナー 有働尚紀
〈 新指導要領の導入後に生じたこと 〉
2019年→2021年の中学生の勉強時間の変化(1週間)を学力別に5段階に分けたとき
5(上位) 47.9時間→36.2時間 11.7時間減
3(中位) 36.0時間→20.7時間 15.3時間減
1(下位) 36.6時間→18.6時間 18.0時間減
2020年のコロナによる休校の前後で、明らかに成績下位の生徒が勉強時間の減少が著しく、学力差の増大がより大きくなっていることが想像できる。
2021年からの教科書改訂で、英語で習得すべき単語数は小学校 600~700 語、中学校1600~1800語となっており中学卒業までに 2200~2500 語を覚えなければいけないようになった。
中学校の英語のNEW HORIZONの教科書(筆者注;採択数の45%を占める)で中1の初めからbe動詞、一般動詞、助動詞 など様々な表現が出てくる。旧課程の従来から中2で出てきた不定詞、動名詞も新しい教科書では中1で出てきている。改訂前は高校内容だった現在完了進行形、仮定法、原形不定詞なども中学指導要領に移行している。
中1英語で最も大切なことはbe動詞と一般動詞が使い分けられることだが、大量の単語と文法事項をマスターしなければいけない教科書でそれがどのくらい徹底できるだろうか。
〈 生徒の現状とそれに対する方策 〉
令和1年度から4年ぶりに実施された令和5年度の全国学力調査では「聞く読む書く」のポイントが56.5→46.1ポイントに、「話す」が30.8→12.1ポイントに低下している。育伸社の全国テストで出題されたほぼ同じ構文の問題で2019に31%だった正解率が2023には11%にまで低下している。また「英語が好きだ」と答える生徒の割合はこの2年間で減少していることなど多くのデータが示す現実が、現場で教えている講師たちの実感と相応している。
j教育セミナーでは、be動詞、一般動詞、助動詞を使った文を最初から教えるのではなく段階的に教えた方が効果は上がると考えて、新年度からbe動詞の文を初めに定着させた後で一般動詞の文に入るカリキュラムに変更するため、3年ほど前に使っていたプログレスを使おうと準備している。プログレスも長らく改訂されていなかったが来年には改訂を予定しているとのことである。
PROGRESS IN ENGLISH21 の目次
Lesson 1 This is / I am / You are / be動詞の否定文・疑問文
Lesson 2 疑問詞・Whatを含んだ文
Lesson 3 複数形、所有格
Lesson 4 I like / I don’t / Do you ? / What color do you ?
Lesson 5 疑問詞:where
Lesson 6 命令文
Lesson 7 3単現
目次の通りbe動詞を定着させてから一般動詞の学習に取り組む順になっているので使いやすく、さらにプログレスをより有効に活用するために全ページの単語の意味や和訳を載せたサブテキストを作成して塾内の生徒に配布し、テキストを使用するときの授業の流れも細かく設定して少しでも生徒の学力向上に力を注いでいる。
音声教材ELSTの活用
学校教科書の本文、単語に即した内容で発音した単語をAIが即座に採点。生徒が録音した声をあとで講師がチェックできるので宿題用に使っている。
オンライン英会話の導入 小学生
講師による日本語での授業の後、海外の外国人講師とオンライン英会話に挑戦。25分間のオンライン留学は1対1で英語のみを使うので生徒はとても熱心にやっているが2024は文法にも力を入れるため別の教材を予定している。
〈 j教育セミナーの取り組み 〉
jが高い合格実績を続けられている大きな理由は教務システムの充実にある。その根幹には「校舎ごと、講師ごとの授業品質を一定に保つ」ため、生徒が持っている学習計画表に、授業1回ごとの学習の指針、授業、家庭学習の各項目の内容が書かれていて家庭学習、確認テスト、基礎力トレーニングのそれぞれの項目に講師の印が必要となっているのでその生徒の学習状況が一目でわかる。講師は週に一度、翌週に実施する授業の打合せなどを綿密にやるなど技術研修によって、どの校舎でも一定の高い授業の質を保つことができている。
実力テストも特に直前の中3の12月には姫路西、姫路東高校の推薦入試予想模試、1月2月には公立入試予想模試を実施しているがその問題作成には膨大な時間をかけている。
小学生の取り組み
プログラミング
世界がデジタル化していくに沿って人の仕事もプログラムすることが求められる時代にった。従って子供たちは初等教育の段階でプログラミングに触れる必要性がある。
jではアニメーションやゲーム作成に挑戦するPCプログラミングと自分で課題を見つけて解決することを目指すロボットプログラミングの二本の柱を立てることで子供たちの興味や特性から引き出せる能力の可能性を広げていこうと試みている。
また兵庫県丹波市にあるジェイ農園での農業体験(田植え、稲刈りなど)や中国地方の最高峰である大山登山(協調や協同の体験)を通じて大自然から多くのことを学んでいる。
およそ1時間あまりの講演だったが現在の中学英語を取り巻く状況と問題点とそれに対する対応策を中心に、最後はj教育セミナーの教務内容について具体的に詳しくお話しいただいた。
筆者の経験ではbe動詞と一般動詞の使い分けが分からないとその上にいくら知識を積み重ねてもそれは砂上の楼閣のようなものでしかない。そこが混乱したままの生徒に対して、正しい文法を入れ直すことは思ったほど簡単なことではない。初めに刻まれた記憶が強いので、そのもつれたひもを解き直す作業を何度も繰り返して教えないと後から入れる記憶が完全に定着しないことが多い。
インターネットから始まりスマホの登場によって多くの人々は新聞を読まなくなり若者はテレビを見なくなり、情報社会の中で、見るもの、読むもの、体験するもののすべてが、所得格差の広がりを受けて階層によって大きく異なってきている。その中で教科書は子供たちが共通して目を通す唯一の紙の媒体であるとある人が言っていた。それは異なる階層を越えて現代に残された貴重な共同体験である。それが多くの子供たちにとってわけが分からなかったという共通の体験になるなら悲しむべきことだろう。誰もが読んだ経験がある。だからこそ、その導入は整理された理解しやすいものでなければいけない。
ここには書き切れなかったが、有働先生にお話いただいたj教育セミナーの教務における内容の緻密さとそれをより充実したものにするためにかける時間の多さは半端なものではないし、また小学生の農業体験に使われる兵庫県丹波市に所有する無農薬の農園での作業、鳥取県の大山の頂上直下にある修学荘という宿泊施設の運営など、決して派手さはないが一つ一つの仕事の丁寧さは教育への素朴な情熱にあふれていると同時に未来を担う子供たちに対する責任の強さと覚悟のようなものを実感するものだった。御恥ずかしい話だが、自らの怠惰な日頃の仕事ぶりに活を入れられた気がした。
文責 平野芳英(I 塾)